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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)107号 判決 1981年10月21日

控訴人(原告) 井坂勝哉 外二名

被控訴人(被告) 横須賀市長

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人は、アメリカ合衆国海軍が占有する横須賀市稲岡町内の土地に四棟、同市長井町内の土地に五棟存在する個人所有の建物の各所有者に対し、固定資産税の賦課徴収を怠つている事実の違法を確認する。訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人らの陳述

1  本件建物のうち、少くとも長井住宅地区の東北端道路沿いに所在する「PH201」の家屋には「ウオーリー・ワキダ」の表札が掲げられており、右家屋はウオーリー・ワキダが所有者であると推認できる。仮に建物の所有者が不明であるとしても、そのような場合には建物の使用者を所有者とみなして、これを固定資産税台帳に登録し、その者に固定資産税を課することができるのである(地方税法三四三条四項)。そして、少くとも右建物の使用者がウオーリー・ワキダであることは明らかである。

2  長井地区内の五棟の建物は横浜防衛施設局長から一般通行路の用に使用許可された道路に接して建築されている。したがつて、被控訴人は右道路から本件建物を至近距離から目撃することは勿論、右建物を個別訪問してその居住者に地方税法上の質問調査権を行使することが可能である。しかるに被控訴人はこれらの調査を怠つているものである。

二  被控訴人らの陳述

仮りに本件建物が固定資産税を賦課すべき建物であつたとしても、本件のような未登記建物については、実地調査をなしたうえ固定資産の評価を行い、家屋補充課税台帳に登録しなければならないのである。本件建物の評価は、控訴人ら主張の方法では足りず、建物の内部に立入らなければならないところ、本件においては、米海軍基地司令官から立入を拒否され、本件建物の所有者は米国海軍であるとの回答がなされているのであるから、調査することができないのである。

三  控訴人らは、控訴本人井坂勝哉尋問の結果を援用し、乙第五・第六号証、第七号証の一・二の成立はいずれも認めると述べた。被控訴人は乙第五・第六号証、第七号証の一・二を提出した。

理由

当裁判所も控訴人らの本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のとおり付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  本件建物のうち長井住宅地区所在の「PH201」の家屋に「ウオーリー・ワキダ」の表示がなされていることは、原審認定のとおりであるが、右事実だけから右家屋の所有者が右同人であると断定できないことは、本判決の引用する原判決(以下単に原判決という。)の説示するとおりである。また、原判決認定の事実関係のもとにおいては、本件建物は個人所有のものとは認め難いのであり、そうだとすれば、合衆国軍隊の所有するものに該ると推認するほかないのであるから、右家屋は地方税法三四三条四項にいう所有者の所在が不明な場合には該らないといわざるをえない。

二  控訴人らは、本件建物は立入を許されている近くの道路からこれを目撃する等の方法により調査可能であるのに、被控訴人はこれを怠つていると主張するけれども、控訴人らの主張する方法によつては、本件建物の所有関係、その構造等家屋補充課税台帳に登録すべき課税要件事実を知ることができないことは明らかであるから、米海軍基地司令官から本件住宅地区内の立入調査を拒否される等原判決認定のような事情のもとにおいて、被控訴人が控訴人主張のような調査方法を行わなかつたことをもつて、本件家屋の固定資産税賦課手続を怠つたものということはできない。

よつて、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺忠之 藤原康志 渡辺剛男)

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